怖い話・怪談

午前0時の清掃員

公開: 2026年9月25日 更新: 2026年10月9日
読み終えたあと、 背後 が少し気になる。
新しいマンションでは、午前0時になると同じ清掃員が廊下を歩く。管理会社に確認すると、夜間清掃は契約していないと言われた。長編怪談。

午前0時の清掃員

引っ越して一週間ほどした頃から、毎晩同じ音を聞くようになった。

ゴロゴロ、ゴロゴロ。

台車の車輪が廊下を進む音。

決まって午前0時。

新築のマンションだったので、最初は夜間清掃だと思っていた。

ある夜、ゴミを出し忘れたことに気づき、私は玄関を開けた。

廊下の奥に清掃員がいた。

灰色の作業服。

青い帽子。

大きな清掃用カート。

こちらを見ず、床をゆっくりモップがけしていた。

会釈したが、反応はなかった。

その翌日も午前0時。

ゴロゴロ。

私はのぞき穴から見た。

同じ清掃員。

同じ服。

同じ速度。

ただ、その日はモップを持っていなかった。

カートだけを押していた。

さらに翌日。

午前0時。

ゴロゴロ。

清掃員は私の部屋の前で止まった。

私は息を殺した。

しばらくすると、ドアの下から紙が滑り込んできた。

「廊下清掃のお知らせ」

日時は翌日午前0時。

その下に、赤い文字があった。

「在室確認を行います」

気味が悪くなり、翌朝管理会社へ電話した。

「夜間清掃ですか?」

担当者は少し黙った。

「うちは夜間清掃の契約はありません」

「でも毎晩――」

「清掃は火曜と金曜の午前10時からです」

私は昨夜の紙について話した。

担当者は、そんな通知は出していないと言った。

その夜、私は友人の家に泊まった。

午前0時5分。

スマートフォンにマンションの防犯アプリから通知が来た。

「玄関前で動きを検知しました」

録画を見る。

清掃員が立っていた。

カメラの真正面。

初めて顔が映っていた。

でも、帽子の下は暗くて見えない。

清掃員はしばらくカメラを見上げた。

それから紙をドアの下へ差し込んだ。

翌朝、友人と一緒に部屋へ戻った。

玄関には紙があった。

「在室確認 不在」

赤いスタンプ。

その下に手書きで、

「次回、室内確認」

私はその日のうちに管理会社へ行った。

担当者に防犯映像を見せた。

担当者の顔色が変わった。

「この人……」

「知ってるんですか?」

担当者はすぐに答えなかった。

古い管理記録を持ってきた。

マンションが建つ前、この土地には別の賃貸住宅があった。

そこには住み込みの清掃員がいた。

十年以上前、夜間の巡回中に亡くなったという。

私は半分信じられなかった。

「じゃあ、幽霊ってことですか」

担当者は首を振った。

「違います」

「え?」

「映像の人は、その清掃員じゃありません」

担当者は古い写真を見せた。

写っていた清掃員は、映像とは全く別人だった。

「じゃあ、これは誰ですか?」

担当者は黙った。

その夜、私はホテルに泊まった。

午前0時。

スマートフォンが鳴った。

防犯アプリではない。

ホテルの部屋のドアチャイムだった。

一回。

二回。

私は動けなかった。

廊下から、聞き慣れた音がした。

ゴロゴロ、ゴロゴロ。

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