空室の宅配ボックス
私は小さなマンションの管理人をしている。
築十五年。
全三十二戸。
駅から遠いせいか、いつも二、三部屋は空いている。
三〇五号室もその一つだった。
半年前に前の入居者が退去し、それから空室のまま。
ある月曜日。
宅配業者から電話が来た。
「三〇五号室、宅配ボックスで大丈夫ですか?」
「そこ、空室ですよ」
送り状の宛名を確認してもらった。
知らない名前だった。
住所だけは合っている。
持ち戻ってもらった。
その翌週。
また三〇五号室宛て。
別の配送会社。
同じように持ち戻し。
三週目。
今度は私がいない時間に配達され、宅配ボックスへ入れられていた。
管理端末を見る。
ボックス番号「08」。
部屋番号「305」。
投函時刻、午後7時32分。
私はマスターキーで開けた。
中には段ボール箱が一つ。
宛名は空欄。
送り主も空欄。
ただ、箱の側面に黒いペンで数字が書かれていた。
「4」
管理会社へ連絡し、翌日回収してもらうことになった。
翌朝。
ボックス08は空だった。
誰かが持っていったらしい。
履歴を見る。
解錠記録はない。
「故障かもしれません」
メーカーに点検を依頼した。
異常なし。
翌週。
また箱が入っていた。
今度は数字。
「3」
その次は。
「2」
私は気味が悪くなった。
「1」になったら何が起きるのか。
管理会社に相談したが、いたずらだろうと言われた。
防犯カメラを確認した。
箱が入った時刻。
宅配業者は映っていない。
住人も通っていない。
午後7時31分。
ボックス08は空。
午後7時32分。
映像が一瞬だけ白く飛ぶ。
次の瞬間。
投函ランプが点灯している。
翌週の月曜日。
私は午後7時前から宅配ボックスの前にいた。
スマホで動画を撮りながら待った。
7時30分。
何もない。
7時31分。
静かだった。
7時32分。
館内の照明が一瞬消えた。
すぐ復旧。
ボックス08のランプが点いていた。
私はその場にいた。
誰も来ていない。
マスターキーで開けた。
中に箱。
数字は。
「1」
その日は開けず、警察へ相談した。
危険物ではないことだけ確認してもらう。
箱の中には紙が一枚。
宅配便の不在票だった。
宛名。
私の名前。
配達予定日。
翌日。
品名。
「鍵」
私は笑えなかった。
翌朝。
管理室の鍵束が一つなくなっていた。
三〇五号室の鍵。
誰も持ち出していない。
防犯カメラにも映っていない。
私は管理会社の担当者と三〇五号室へ向かった。
扉は施錠されていた。
予備キーで開ける。
半年間空室の部屋。
家具はない。
床に埃が積もっている。
ただ一か所だけ。
玄関から寝室まで、足跡が続いていた。
裸足。
一人分。
寝室の中央に段ボール箱があった。
側面に数字。
「0」
箱の中には鍵。
三〇五号室の鍵だった。
その下に、もう一枚不在票。
宛名。
管理会社の担当者。
配達予定日。
翌週の月曜日。
担当者はその場で三〇五号室を再施錠した。
「この部屋、しばらく募集止めましょう」
そう言った。
その夜。
宅配ボックスの管理端末に通知が出た。
新規投函。
ボックス08。
部屋番号。
「管理室」
私は開けていない。
今もランプは点いたままだ。
翌朝、管理会社の担当者が来た。
ボックス08を開けることになった。
警察にも立ち会ってもらった。
中には小さな箱が一つ。
宛名は「管理室」。
送り主は三〇五号室。
箱の中には、古い写真が入っていた。
このマンションの建設前に撮られた土地の写真。
裏面に日付。
二十年前。
写真には古いアパートが写っていた。
入口脇に宅配ボックスのような金属箱。
番号は08。
管理会社の担当者が首をかしげた。
「この頃、宅配ボックスなんて付いてないはずです」
写真を拡大した。
金属箱の前に人が立っていた。
顔は影で見えない。
手には紙。
不在票だった。
その夜、ボックス08のランプが消えた。
ようやく終わったと思った。
翌週の月曜日。
午後7時32分。
管理端末が鳴った。
新規投函。
今度のボックス番号は。
「09」
部屋番号を見る。
三〇六号室。
そこは昨日、新しい入居者が契約したばかりだった。
まだ誰も引っ越してきていない。
管理会社は今、08番と09番の宅配ボックスを使用停止にしています。
