怖い話・怪談

十三階の非常階段

公開: 2026年9月25日
読み終えたあと、 背後 が少し気になる。
深夜残業のあと、エレベーターが止まり非常階段を使うことになった。十二階建てのはずのビルで、十三階の踊り場が現れる。長編怪談。

十三階の非常階段

その会社のビルは十二階建てだった。

入社した日に総務から渡された館内案内にも、エレベーターのボタンにも、屋上へ続く階段の表示にも「12」までしかなかった。

だから、最初に「13」と書かれた踊り場を見たとき、私は数字の見間違いだと思った。

その日は月末で、退社したのは午前1時を過ぎていた。

フロアには私しか残っていなかった。エレベーターを呼ぶと、到着表示が「8」のまま動かない。

何度ボタンを押しても同じだった。

仕方なく非常階段へ向かった。

十二階から一階まで降りるだけだ。少し面倒だが、それだけだと思っていた。

重い防火扉を開ける。

階段には非常灯だけが点いていた。

12。

11。

10。

順調に降りていた。

七階あたりで、上の方から扉が閉まる音がした。

バタン。

誰かいるのかと思って振り返った。

誰もいない。

私はまた降りた。

六階。

五階。

四階。

そこで、スマホが圏外になった。

少し気味が悪くなり、足を速めた。

三階。

二階。

一階。

やっと着いたと思って防火扉を押した。

開かない。

鍵がかかっているような手応えだった。

仕方なく地下へ行こうとした。

しかし階段は、下ではなく上へ続いていた。

一瞬、頭が混乱した。

自分が向きを間違えたのだと思い、来た道を戻った。

二階。

三階。

四階。

……十二階。

そこまでは普通だった。

だが、その上にもう一つ踊り場があった。

壁の表示は「13」。

私は立ち止まった。

このビルに十三階はない。

それでも、十三階の扉には私の会社名が書かれていた。

「株式会社――」

文字は確かにうちの会社だった。

扉の向こうから、キーボードを打つ音がした。

カタカタカタカタ。

私は声をかけなかった。

そのまま階段を下りようとした。

すると、十三階の扉の向こうで電話が鳴った。

一回。

二回。

三回。

四回目で誰かが取った。

「はい。――まだ残っています」

私は足を止めた。

その声は、私だった。

次の瞬間、ポケットのスマホが震えた。

圏外のはずなのに着信していた。

表示は「社内 内線」。

私は出なかった。

着信は切れた。

すぐに留守電通知が来た。

再生しなかった。

私は一気に階段を駆け下りた。

12。

11。

10。

今度は数字が正常に減っていった。

一階の扉も開いた。

警備員室には人がいた。

私は十三階のことを話した。

警備員は黙って私を見た。

「十三階なんてありませんよ」

「でも、会社名が――」

「今日はもう帰った方がいいです」

それ以上は何も言わなかった。

翌朝。

会社に行くと、私の机の電話のランプが点滅していた。

留守電が一件入っている。

昨夜の午前1時27分。

再生した。

しばらく無音。

そして、自分の声が聞こえた。

「まだ、十二階にいる?」

その日の夕方、私は総務に建物の設計図を見せてもらった。

本当に十二階建てだった。

ただし、古い図面の端に小さな手書きがあった。

赤いペンで。

「旧13F 閉鎖」

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