『犬鳴村』は、福岡県に実在する旧犬鳴トンネル周辺で語られてきた都市伝説を入口にしながら、清水崇監督が家族の過去と“村”の因縁を組み込んだ2020年のホラー映画です。重要なのは、実在する場所・ネット上の都市伝説・映画独自の設定を同じものとして扱わないこと。HorrorPortでは、この3層を分けたうえで作品の怖さを読み解きます。
映画『犬鳴村』とは
『犬鳴村』は2020年2月7日に公開された日本のホラー映画です。JFDB(日本映画データベース)では上映時間108分、監督は清水崇、脚本は保坂大輔と清水崇、主演は三吉彩花、国内配給は東映と確認できます。清水崇は原案にも名を連ねています。
主人公の森田奏は臨床心理士として働く女性。彼女の周囲で、奇妙なわらべ歌、失踪、不可解な死が続き、それらの共通点として「犬鳴トンネル」が浮上します。ここから物語は、単なる心霊スポット探索ではなく、奏の家族と過去へと広がっていきます。
作品を理解するときに最も大切なのは、「犬鳴村という村が映画の内容どおり実在した」と受け取らないことです。宮若市は公式ページで、映画はフィクションであり、犬鳴ダム建設や集団移転、旧道・旧トンネルの廃止をめぐる映画内の描写は事実と異なると明示しています。
ネタバレなしのあらすじ
森田奏の身近な人物に不可解な出来事が起こり始めます。ある女性は奇妙な歌を口ずさみ、兄弟の失踪や不審な死も重なっていきます。調べていくと、異変に巻き込まれた人々が「犬鳴トンネル」と接点を持っていたことが見えてきます。
奏は原因を探るためトンネルへ向かいますが、そこで向き合うのは“怖い場所に幽霊が出る”という一話完結型の恐怖だけではありません。なぜこの場所が恐れられているのか、なぜ奏の家族に異変が集中するのか、過去と現在がどうつながるのかが物語の中心になります。
そのため本作は、肝試し型のホラーとしてだけでなく、土地の記憶と家族の記憶が重なる物語として見ると構造がつかみやすくなります。
「犬鳴村」の元ネタを3つに分けて理解する
本作は実在地と都市伝説を使っているため、事実関係が混線しやすい作品です。HorrorPortでは次の3層を分けます。
1. 実在する旧犬鳴トンネル
旧犬鳴トンネルは福岡県の宮若市と久山町にまたがる旧道側のトンネルです。宮若市によれば、現在は旧道を含め通行できず、自治体側は入口に門や柵を設けて侵入を禁止しています。道路の陥没や落石などの危険もあるため、映画を見て現地に興味を持っても、封鎖区域へ入ってはいけません。
ここは「映画のロケ地へ自由に入れる観光地」ではありません。作品ページと実在スポットの情報を分ける理由は、面白さだけでなく安全性と正確性のためでもあります。
2. ネットや口コミで広がった「犬鳴村」都市伝説
旧犬鳴トンネルの先に、通常の社会から隔絶された“犬鳴村”がある――という形の噂は、インターネット時代の代表的な都市伝説の一つとして流通してきました。語り手や時期によって細部は変わり、「地図にない」「外部の人間を拒む」「危険な標識がある」など、さまざまな要素が付け加えられてきました。
これらは史実の一覧ではなく、あくまで都市伝説として扱う必要があります。映画は、その“断片的で確証のない噂”を物語の入口として利用しています。
3. 映画が作ったオリジナルの物語
東映ビデオは本作を、都市伝説を題材にした「完全オリジナルストーリー」と説明しています。つまり、映画内で描かれる村の歴史、人物関係、呪いの仕組み、家族の因縁をそのまま地域史として読むことはできません。
宮若市も映画公開後、映画の内容は事実に基づいたものではないと明記しました。実在の名称と場所を借りながら、映画として再構成したフィクションだと理解するのが最も正確です。
清水崇は都市伝説をどう映画化したのか
清水崇監督は制作前、プロデューサーや脚本家とともに旧犬鳴トンネル周辺を実際にリサーチしています。シネマトゥデイのインタビューでは、現地で感じた雰囲気が物語づくりや映画全体のトーンに影響したと振り返っています。
ただし、主要なトンネル場面を実在の旧犬鳴トンネルで撮影したわけではありません。安全面や許可の問題から別のトンネルを探し、犬鳴トンネルを思わせる外観へ作り込んで撮影したと清水監督は説明しています。一方、完成間際には実在の旧犬鳴トンネルの映像を撮影し、エンドクレジットに使用しました。
ここに本作の特徴があります。実在地をそのまま“証拠映像”として使うのではなく、現地調査で得た感触をフィクションの美術・ロケーション・物語へ変換しているのです。
実在地とフィクションの距離を保とうとした制作
実在の場所を使ったホラーは、作品がヒットするほど「どこまで本当なのか」が話題になりやすくなります。清水監督自身もインタビューで、実際の地域史を調べたうえで、歴史に寄りかかりすぎず劇映画として作る必要があったと話しています。
さらに、当初は地元から協力を得にくいと考えていたものの、完成間際に宮若市との協力関係が生まれ、市内で試写会も行われました。一方で自治体は公開後、映画と史実を明確に切り分け、不法侵入防止について注意喚起しています。
この「作品には協力するが、フィクションと現実は分ける」という関係は、『犬鳴村』を調べるうえで非常に重要です。
主演・三吉彩花が語ったトンネル撮影
主演の三吉彩花は映画ナタリーのインタビューで、撮影時に特に怖かった場所としてトンネルを挙げています。夜間で寒く、水たまりがあり、出口が見えない環境だったことを振り返っています。撮影に使われたのは実在の旧犬鳴トンネルそのものではなく、現在使われていない別のトンネルでした。
この証言は、観客が感じる“トンネルの湿り気・閉塞感・先が見えない感覚”が、セットだけの抽象的な恐怖ではなく、実際のロケーション環境とも結びついていたことを示します。
HorrorPort独自分析|『犬鳴村』の恐怖構造
ここからは資料で確認できる制作情報と分けて、HorrorPortによる作品構造の分析です。
恐怖構造1|「実在する入口」がフィクションへの信頼感を上げる
完全に架空の地名を使うホラーと違い、『犬鳴村』には旧犬鳴トンネルという実在する入口があります。観客は「トンネルは本当にある」という事実を知ることで、その先に置かれた架空の物語まで現実に近く感じやすくなります。
ただし、この感覚こそが誤情報を生む原因にもなります。実在する入口と架空の奥地を意図的に接続することが、本作の強みであり、同時に注意すべき点です。
恐怖構造2|トンネルが“境界”として働く
トンネルは、こちら側と向こう側を一本の通路で結ぶ場所です。出口が見えない、引き返しても同じ暗闇が続く、音が反響する。ホラーでは境界装置として非常に強い空間です。
『犬鳴村』では「トンネルを抜けた先に何があるのか」という都市伝説の形式そのものが、観客に越境の不安を与えます。恐怖の対象を最初から見せるのではなく、“進めば境界を越えてしまう”という予感を長く維持できる構造です。
恐怖構造3|噂が家族の問題へ侵入してくる
ネット都市伝説だけで終わるなら、怖い場所を避ければ物語から逃げられます。しかし本作は、奏の身近な人物や家族へ異変を広げます。結果として「危険な場所へ行かなければいい」という距離の取り方が崩れます。
場所の怪談だったものが、家族の過去や自分自身の問題へ変わることで、恐怖は“外部の噂”から“内部の問題”へ移ります。これが本作を単なる心霊スポット映画にしない重要な転換です。
恐怖構造4|「本当かもしれない」という検索行動まで作品の外へ伸びる
『犬鳴村』のような都市伝説型ホラーでは、鑑賞後に実在地や元ネタを検索する行為まで体験が続きます。検索すると実在するトンネル、自治体の注意喚起、都市伝説、映画情報が同じ検索結果に並びます。
その混在自体が「どこからが作り話なのか」という感覚を揺らします。HorrorPortでは、そこを煽るのではなく、事実・噂・映画設定を分解したうえで楽しめる状態を作ることを重視します。
「恐怖の村」シリーズの第1作としての位置づけ
『犬鳴村』の後、清水崇監督による『樹海村』(2021年)、『牛首村』(2022年)が制作されました。JFDBは『樹海村』を『犬鳴村』に続く「恐怖の村」シリーズ第2弾、『牛首村』を『犬鳴村』『樹海村』に続く第3弾と説明しています。
3作に共通するのは、現実世界で名前を知られた場所や噂を入口にしつつ、そこへ映画独自の呪い・人物・物語を組み込むことです。『犬鳴村』は、そのフォーマットを成立させた出発点として見ることができます。
興行面でもシリーズ化を後押しした作品
TBSの地上波放送紹介では、『犬鳴村』は動員110万人を突破し、興行収入14億円超と紹介されています。文化通信の『樹海村』プロデューサーインタビューでも、前作『犬鳴村』を興収14億円のヒットとして振り返っています。
ホラーは大作アクションに比べて製作規模が限られることも多いジャンルですが、本作は「日本の都市伝説×清水崇」という明確な企画性で広い観客に届き、その後のシリーズ展開につながりました。
どんな人に向いている?
- 都市伝説と映画の関係を調べながら見たい人
- 実在する場所を入口にしたJホラーが好きな人
- 『呪怨』とは違う清水崇作品の展開を追いたい人
- 心霊スポット型ホラーだけでなく、家族の因縁を扱う物語が好きな人
- 『樹海村』『牛首村』までシリーズで見たい人
一方、現実の事件・地域史を忠実に再現した作品を求めている場合は注意が必要です。『犬鳴村』はドキュメンタリーではなく、都市伝説をもとにしたフィクションです。
ネタバレあり|『犬鳴村』が「場所の怪談」だけでは終わらない理由
以下は物語後半の方向性に触れます。未鑑賞の方は鑑賞後に読むことをおすすめします。
『犬鳴村』は、トンネルの向こうに恐ろしい村があるという“探索型の怪談”から始まります。しかし終盤へ向かうほど、恐怖の焦点は「村に何がいるか」だけではなく、奏の家族がその過去とどうつながっているかへ移ります。
この転換によって、主人公は怪異を外から観察する人ではいられなくなります。自分の家族史の中に原因が入り込むため、調査することは同時に自分自身の由来を知ることになります。
HorrorPortでは、この構造を「場所→家族→自己」の三段階と捉えます。最初は検索できる都市伝説、次に身近な家族、最後に自分のアイデンティティへ恐怖が近づく。距離が縮まるほど、観客も“よその怖い話”として処理しにくくなります。
また、映画内の村史を現実の宮若市の歴史と同一視しないことも重要です。終盤の情報量が増えるほど、映画的な説明を“実在地の真相”のように記憶しやすくなりますが、自治体は明確にフィクションとしています。作品の考察と現実の地域史は、最後まで分けて扱うべきです。
再鑑賞するときの注目ポイント
- 序盤で出る「歌」「失踪」「トンネル」の情報が、後半でどう結び直されるか
- 奏が最初は他者の異変を観察し、次第に当事者へ変わっていく過程
- トンネルの暗さ・湿度・奥行きを使った空間演出
- “ネットで語られる都市伝説”と“映画の家族史”の境界
- 実在地を直接使わず、別ロケーションを加工して「犬鳴らしさ」を作った点
- シリーズ第2作・第3作へつながる「実在の噂を映画化する」方法
実在の旧犬鳴トンネルへ行きたい人へ
旧犬鳴トンネルへ向かう旧道・封鎖区域には入らないでください。宮若市は、市有地への立ち入りを禁止し、不法侵入は犯罪になり得ること、陥没や落石などの危険があることを公式に案内しています。
HorrorPortでは、心霊スポット情報を「行けば怖い」という煽りだけで扱いません。現地の管理状況、立入可否、公的な注意情報を優先し、噂と現実を分離します。
確認できる事実/確認できないことを整理
『犬鳴村』は「実話」「本当にある村」といった検索をされやすい作品です。ここは結論を曖昧にしないほうが安全です。
- 旧犬鳴トンネル:実在します。ただし現在は旧道を含め通行できず、封鎖区域への侵入は禁止されています。
- 映画『犬鳴村』:実在の場所・都市伝説を題材にしたフィクションです。
- 映画内の村史:そのまま地域の史実として扱えません。宮若市はダム建設や集団移転など映画内の描写が事実と異なると明示しています。
- 主要なトンネル撮影:旧犬鳴トンネルそのものではなく、別の使われていないトンネルを加工して撮影しています。
- 実在の旧犬鳴トンネル映像:清水監督の証言では、完成間際に撮影した実景がエンドクレジットに使われています。
「実在する場所がある」ことと、「映画の物語が実話である」ことは別です。この一線を守ると、本作の面白さを損なわずに元ネタを調べられます。
主要スタッフと作品づくりの役割
JFDBでは、清水崇が監督・原案・脚本、保坂大輔が脚本、福本淳が撮影、海田庄吾が音楽としてクレジットされています。東映ビデオの作品情報では音楽に滝澤俊輔も記載されています。
この作品は“都市伝説の説明映画”ではなく劇映画なので、史実の再現より、観客が「その先に何かある」と感じる空間づくりが重要です。現地調査、似たトンネルの探索、ロケーションの加工、実在地の映像という複数の工程を重ね、現実と創作の距離を調整しています。
主人公を臨床心理士にした点も特徴です。奏は最初から退魔能力を持つ人物ではなく、周囲の異変を観察し、原因を追う立場から物語へ入ります。調査する人物が、やがて自分自身の家族史へ巻き込まれるため、“調べる側”と“怪異の当事者”の境界も崩れていきます。
よくある疑問
犬鳴村は本当に存在する?
映画に登場する“犬鳴村”をそのまま実在の村として扱うことはできません。旧犬鳴トンネルや犬鳴地域に関する実在の地理・歴史はありますが、宮若市は映画自体をフィクションと明記しています。
旧犬鳴トンネルには入れる?
入れません。宮若市は旧道を含む封鎖区域への侵入を禁止しており、陥没・落石などの危険も案内しています。柵を越える行為や封鎖場所への立ち入りは避けてください。
映画は実話をもとにしている?
「実在地と都市伝説を題材にした作品」ではありますが、自治体と東映側の説明から、映画の物語を実話再現とみなすのは不正確です。東映ビデオは完全オリジナルストーリーと説明しています。
トンネルのシーンは本物の旧犬鳴トンネルで撮った?
主要場面は別のトンネルで撮影されています。清水監督は、実在地での撮影は危険や許可の問題があるため似た場所を探して作り替えたと説明しています。実在の旧犬鳴トンネルはエンドクレジット用に撮影されました。
「恐怖の村」シリーズはどの順番?
公開順は『犬鳴村』(2020)→『樹海村』(2021)→『牛首村』(2022)です。物語が一本の連続ドラマになっているというより、実在の場所や噂を入口にした“村シリーズ”として見ると分かりやすいです。
関連するHorrorPortデータ
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参考・確認資料
- JFDB『犬鳴村』(公開日、上映時間、スタッフ、配給、作品概要)
- 宮若市「旧犬鳴トンネルについて(映画『犬鳴村』)」(立入禁止、実在地と映画の事実関係)
- シネマトゥデイ「『犬鳴村』監督、清水崇が描きたかった恐怖」(現地調査、トンネル撮影、宮若市との協力)
- 映画ナタリー「犬鳴村 三吉彩花インタビュー」(トンネル撮影時の証言)
- 東映ビデオ『犬鳴村』(作品紹介、キャスト・スタッフ、オリジナルストーリーの説明)
- TBSテレビ「映画『犬鳴村』」(動員・興行収入の紹介)
- JFDB『樹海村』(「恐怖の村」シリーズ第2弾の確認)
- JFDB『牛首村』(シリーズ第3弾の確認)
研究資料・参考文献
HorrorPortでは、公式情報・公的資料・論文・報道・書籍などの出典を区別して管理しています。噂に関する出典は「その噂が存在すること」の確認資料であり、超自然現象そのものを事実認定するものではありません。
- 公式Web一般参考
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- 新聞・報道事実確認
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- 公式Web作品情報
- 公式Web作品情報
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