最後の一段
古いアパートの三階に住んでいたころ、私は夜中に階段を上がる癖があった。
エレベーターがなかったから、帰宅するといつも一段ずつ数えた。
一階から二階まで十三段。踊り場を曲がって、二階から三階まで十三段。
合計二十六段。
ある晩だけ、二十七段あった。
酔っているのかと思って、いったん下まで戻った。
もう一度数えた。
二十六。
気のせいだと思って三階へ上がると、廊下の奥に誰かが立っていた。
人影は私の部屋の前にいた。
声をかけようとした瞬間、影がゆっくりこちらを向いた。
顔は見えなかった。
ただ、足元だけが見えた。
靴を履いていなかった。
そしてその人は、階段のほうへ歩いてきた。
怖くなって私は部屋へ逃げ込み、鍵をかけた。
数分後。
廊下から、小さな声が聞こえた。
「二十七」
翌朝、管理人に昨夜のことを話した。
管理人は階段を見て、少し黙った。
「昔ね、ここの階段から落ちた人がいたんです」
私は聞いた。
「何段目で?」
管理人は首を横に振った。
「それが、警察の記録では二十七段目って書いてあるんですよ」
この階段は、今も二十六段しかない。
